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線を鍛える|クリエイターという職業

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数年前に書店で、軽く立ち読みしたきりで、欲しかったのだけど買わずにいた本を、今さらながら購入しました。

昔から絵というよりも線画への憧れみたいなものがボクの中にはあって、魅力的な線を見つけては「こういう線が引きたいな」と思い、紙にひたすら線だけを引きまくったりもしました。パソコンでの作業でイラストを完成させることが多い今も、鉛筆とクロッキー帳は基本手放せません。

あまり憧れの絵描きという人はいないのですが、「こういう線が引きたいな」と純粋に思うイラストレーターの1人が森本美由紀さん(以下、敬称略)です。

『森本美由紀のファッションイラストレーションの描き方』というタイトルの、スタイリッシュな線画を描くための実用書ですが、正直なところ一朝一夕でこのような絵が描けるという内容ではありません。むしろ実用書としては買うならあまりオススメはしません。

ただ、絵を描くにあたっての基本的なこと、考え方がしっかり著されていて、それ自体はごく当たり前なのですが、絵を仕事にしたい人たちのほとんどができていないことで、ボクも改めて「きちんと描けてるかな」と身が引き締まる思いをしました。

職業柄というか立場上、「イラストを描きたい、イラストを仕事にしたい」という人間に嫌という程会います。
そのほとんどは、自己表現ができ、それを認められると嬉しいからという理由です。

ただ、その先に何があるのでしょうか?
それを聞くと、ほとんどの人は答えに詰まってしまいます。

この本の中に「自分が惹かれるものを見つける」という項目があります。

スタイル(タッチやモチーフ)を決めることにあまり意味はなく、描く以前に「自分はこういうものが好き」だということを蓄積すべきだと書かれています。
具体的には、ブリジット・バルドーの表情が好きで、森本美由紀の描く唇はバルドーの唇の雰囲気で描かれているものが多いということだったり、『セブンティーン』という雑誌の広告モデルを何度も繰り返し見て刷り込まれていて、それが絵ににじみ出ていることなどが書かれています。

イラストの表現というのは、アート的に見えてアート自体ではないし、一部の作家的なイラストレーターやタレントが絵を描きましたというものでないかぎり、その描かれる絵に対する関心に比べ、描いている人への興味というのは存外薄いのだと思います。

イラストを描くこと自体に憧れるのはカンタンなのですが、描く以前に、それによって何をしたいのか、目的が何なのかを明確にしなければなりません。「自身が何に惹かれているのか」というのは、自身を観察するような厳しい視点も必要なのでしょう。

その上で、客観性が必要なのがイラストです。
本書にも、描いたものを見せること、また他人の描いたものを見ることの重要性が説かれています。
自身の絵を辛辣な意見をくれる人の目に晒さなければ、成長もしません。
クライアントやスタッフを含めて、まわりにそういう人たちがいてくれるので、その点でボクは本当に助かっているのだと思います。

また、「線を鍛える」という表現が、本書には出てきます。

線を鍛えるという、この感覚も本当に大切だと思います。
キャリアが長くなればなるほど、手グセで描いてしまったり、自分のタッチに甘えるということが多くなります。

最近、ペンタブを新調しましたが、線を鍛える続けるためにも、やはり鉛筆や筆などアナログが手放せません。

デッサン的なことだけでなく、基本的なことをつい見失いがちにはなりますが、本書のような良書に出会えると、初心を忘れずにいられます。
イラストを本気で描きたいと思われる方には、一読して欲しい一冊です。

代表 山中大輔

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